「アンコンシャス バイアス」で検索したサイトについて、論じてみる


 

 日本ではどのようにアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は説明されているでしょうか。Googleで「アンコンシャス バイアス」と検索し、ヒットした上位10サイトについて見ていきたいと思います。以下が、2024/8/22時点でのものです。

1. 内閣府男女共同参画局「共同参画」2021/5 202105.pdf
2. アンコンシャスバイアスとは | 一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所

3. 気づこう、アンコンシャス・バイアス~真の多様性ある職場を~ |連合アクション 2020  
4. アンコンシャス・バイアスとは | 株式会社クオリア

5. アンコンシャス・バイアス 自分自身の「無意識の思い込み」に気づこう | CMIC Diversity & Inclusion|C-PRESS vol.16

6. 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消等に向けた普及啓発用動画 | 令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究 | 内閣府男女共同参画局

7. アンコンシャス・バイアス セミナー ―心に潜む“無意識の思い込み”に気付く― 

8. アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス) | 用語集 | 株式会社クオリア

9. アンコンシャス・バイアスを体感しよう|福岡県女性の活躍推進ポータルサイト『女性がリードするフクオカのミライ』

10. アンコンシャス・バイアスとは|具体例から理解する、組織への悪影響 - 『日本の人事部』

その他:男女共同参画学協会連絡会のリーフレット



1. 内閣府男女共同参画局「共同参画」
 アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の具体的事例として、以下のものが例として挙げられています。

 また、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)による悪影響の可能性について、親が単身赴任と聞けばまず父親を思い浮かべるという事例で説明しています。そして、「「え?母親なのに単身赴任?お子さん、かわいそうね・・・」といった言動が、母親や、家族を傷つけることがあるかもしれません」と述べています。このような浅慮な発言をするかしないかは、その人の素養や経験値によるのではないでしょうか。
 アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)が意識に何らかの影響を与えても、それは非礼な言動など相手に直接的に働きかけるものになるとは限りません(潜在的バイアスの研究は、何を解きたいのか?: 性別の異なる履歴書と、一夜にして有名 (bias-research.blogspot.com))。アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)について語る際そこに言及がない事は、大きな情報の欠落です。

 対処法が3つ挙げられています。1つ目は、決めつけや押しつけの言動に気を付け、相手を尊重する心の姿勢を持つ事、2つ目は、相手の反応の違和感を感じ取りフォローを心掛ける事、3つ目は1,2週間メモを取って自分のものの見方の偏りに気付こうとする事です。

 この対処法は、した方もされた方も気づかない差別的行動に無力である事が問題です(潜在的バイアスの研究は、何を解きたいのか?: 性別の異なる履歴書と、一夜にして有名 (bias-research.blogspot.com))。

 最後に、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)と向き合い続けていく要点として「101人目に思いを馳せてみてください。」と述べられています。これは「人を先入観で見ない」といった古くからある言葉を、謳い文句に言い換えているものです。この心がけがアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)を減じるという研究は提出されていません(潜在的バイアス(アンコンシャス・バイアス)は克服できる? (bias-research.blogspot.com))。


2. アンコンシャスバイアスとは | 一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所

 アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の解釈は以下のようになっています。

『私たちは、何かを見たり、聞いたり、感じたりしたときに、「無意識に”こうだ”と思い込むこと」があります。これを、アンコンシャスバイアスといいます。日本語では、「無意識の思い込み」などとも表現されています。』

 アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は、非常に幅広く曖昧な「無意識に”こうだ”と思い込むこと」とは扱われていません(日本での誤用:その他、独特の解釈 (bias-research.blogspot.com))。
 その他の内容は、これまで述べて来たものと重複するので割愛します。


3. 気づこう、アンコンシャス・バイアス~真の多様性ある職場を~ |連合アクション 2020  

「あなたの中の"無意識の思い込みや偏見"をさぐってみませんか?まずは「診断」にチャレンジしてみてください!」とのことで、チェックリストが表示されています。
 以下、サイトより抜粋します。
 

 
 また、「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み、偏見)を知っていますか?」との文言がこのサイトにはありますが、バイアスを偏見と訳すことはこの文脈で適当ではないと考えます(潜在的バイアスと、偏見:「無意識の偏見」という訳について (bias-research.blogspot.com))。

 さらに、このサイトには、以下のような文言もあります。

 『あらゆるものを「自分なりに解釈する」という脳の機能によって引き起こされるものです。
 私たちは同じモノをみていても、一人ひとり「解釈」は異なります。例えば、「真面目ですね!」といわれて、嬉しいと感じる人もいれば、何も思わない人がいるといったように、です。私たちは、アンコンシャス・バイアスがキッカケとなり、無意識のうちに(知らず知らずのうちに)、相手を傷つけたり、相手を苦しめたりしていることがあります。そういった事に対処するためにも、誰もが知っておいたほうがよいと思われる概念として、近年注目をあびるようになりました。』

 一人ひとりの解釈の違いの起因をアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)に求めていますが、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)はそのように非常に範囲の広いものとしては扱われません。
  また、日常の中のアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の例として、ステレオタイプ、正常性バイアス、確証バイアス、権威バイアス、集団同調性バイアスが挙げられています。しかし、これらをアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)として扱われてはいません(アンコンシャス・バイアス、それはバイアスの総称?? (bias-research.blogspot.com))。
 決めつけや押し付けが良くないと書かれているが、それらはアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)という文脈がなくても語れる礼儀作法や意思疎通方法に関わる話だと思われます。また、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は必ずしもそういった言動に出るとは限りません(日本での誤用:その他、独特の解釈 (bias-research.blogspot.com)潜在的バイアスの研究は、何を解きたいのか?: 性別の異なる履歴書と、一夜にして有名 (bias-research.blogspot.com))。

 さらに、以下のような「身近なアンコンシャス・バイアスの例」がありますが、これらは本人の意識に関わるものです(潜在的バイアスの研究は、何を解きたいのか?:「顕在的」と「潜在的」の関係 (bias-research.blogspot.com))。



4. アンコンシャス・バイアスとは | 株式会社クオリア https://www.qualia.vc/unconscious-bias/about

 このサイトではアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の解釈を以下のように述べています。

 『アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス)とは、自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方の歪みや偏り」をいいます。アンコンシャス・バイアスは、その人の過去の経験や知識、価値観、信念をベースに認知や判断を自動的に行い、何気ない発言や行動として現れます。自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあるとは認識していないため、「無意識の偏見」と呼ばれます。』

 アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の解釈は、非常に広範囲の「自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方の歪みや偏り」」といった事ではありません。何気ない発現や行動に、それと分かるように現れるとは限りません(日本での誤用:その他、独特の解釈 (bias-research.blogspot.com)潜在的バイアスの研究は、何を解きたいのか?: 性別の異なる履歴書と、一夜にして有名 (bias-research.blogspot.com))。また「無意識の偏見」と訳すのは適当ではないと思われます(潜在的バイアスと、偏見:「無意識の偏見」という訳について (bias-research.blogspot.com))。

 さらに、このサイトでは以下のようにも述べています。

 『アンコンシャス・バイアスは些細な言動や何気ない行為に含まれており、「よくあること」「気にする人のほどの事ではない」と見過ごされがちです。しかし、そのまま放置すると、社員のモチベーション低下やハラスメントの増加、職場のコミュニケーション不全、ひいては組織や個人のパフォーマンス低下など様々な弊害を生みます。』

 ここで、「「よくあること」「気にするほどの事ではない」と見過ごされがちです」と書かれている内容は、以下のような「職場でよくあるアンコンシャス・バイアス例」です(抜粋)。


 これらの悪影響として、以下の表が記載されています。

クオリアによる表(2024/09/23 閲覧)

 この表は、顕在的な確認項目で判断可能な、独善的や非礼な、もしくは自信のない等の態度が周りに及ぼす悪影響だと考えられます。
 
 ちなみに、以下の表は、「「アンコンシャス・バイアス」マネジメント」にあるアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)によって引き起こされる問題例の表です。クオリアの表と類似しています。

守屋氏による表(2019/5/22出版)(ブログ著者が左右を入れ替えている)

 加えて、クオリアのサイトでは、「アンコンシャス・バイアスの代表的な例」として正常性バイアスや集団同調性バイアス等が挙げられていますが、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)はバイアスの総称として扱うのは適切ではないと考えます(アンコンシャス・バイアス、それはバイアスの総称?? (bias-research.blogspot.com))。


5. アンコンシャス・バイアス 自分自身の「無意識の思い込み」に気づこう | CMIC Diversity & Inclusion|C-PRESS vol.16
 これまで指摘してきた内容と重複しますので、割愛します。


6. 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消等に向けた普及啓発用動画 | 令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究 | 内閣府男女共同参画局

 『無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)とは自分自身は気づいていない「ものの見方やとらえ方のゆがみや偏り」をいいます。自分自身では意識しづらく、ゆがみや偏りがあるとは認識していないため、「無意識の偏見」と呼ばれます』

 しかし、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は「思い込み」といった範囲の大きなものとは扱われません(日本での誤用:その他、独特の解釈 (bias-research.blogspot.com))。また、「無意識の偏見」と呼ぶことは適切ではないと考えます(潜在的バイアスと、偏見:「無意識の偏見」という訳について (bias-research.blogspot.com))。
 さらに彼らは「その無意識調査は何の調査?」節で述べたように意識調査を行い、それを展開しています。そういった直接的な質問による調査は顕在的なものになります(潜在的バイアスの研究は、何を解きたいのか?:「顕在的」と「潜在的」の関係 (bias-research.blogspot.com)日本での誤用:その無意識調査は何の調査? (bias-research.blogspot.com))。


7. アンコンシャス・バイアス セミナー ―心に潜む“無意識の思い込み”に気付く― 
 厚生労働省による動画です。

 まず、「無意識の思いこみ」という言葉を使う事は適切ではないと考えます(日本での誤用:その他、独特の解釈 (bias-research.blogspot.com))。
 
 動画では、Bさんは子供の発熱で保育園から連絡があったので、会社を早退して保育園に迎えに行ったという事例から、どのような人を思い浮かべるか?と視聴者は尋ねられます。そして案内役は、まず性別を思い浮かべがちだと述べています。それから彼らは「知らず知らずのうちに性別を思い浮かべながら事例を読んでいた、つまり無意識の思い込みに基づいて事例を読んでいたといえます。」と述べます。これは、「知らず知らずのうちに性別を思い浮かべながら事例を読んでいた、つまり潜在的なステレオタイプに影響されながら事例を読んでいたといえます。」とでもした方が良いと考えます。
 
 彼らは、「アンコンシャス・バイアスとは、自分自身が気づかずに持っているものごとのとらえ方の偏りや思い込みのこと」としています。また、用語として「無意識のバイアスや、無意識の偏見と呼ばれることもあり」としています。しかしアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)を「無意識の偏見」と訳す事は適切でなく、それを省くよう提案したいと思います(潜在的バイアスと、偏見:「無意識の偏見」という訳について (bias-research.blogspot.com))。

 さて、職場におけるアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の弊害として4つの例が挙げられています。

 例1は、育児中の部下に対する残業の指示は女性でなく男性にする、という事例です。
 例2は、男性部下からの育児休業申請がされると、上司は彼が昇進を諦めたのかと受け取る事例です。
 例3は、男性のほうが顧客から信頼されやすい、と上司が思っている事例です。
 例4は、性別に付随する感性があるとする、職務の任命に関する事例です。

 これらは、最初に彼らが紹介した「自分自身が気づかずに持っているものごとのとらえ方の偏りや思い込み」がある事例ではなく、「自分自身が持っているものごとのとらえ方が、偏りにあたることに気づいていない」事例ではないでしょうか。同じような語彙を使っていますが、本来のアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)とは異なる解釈に行き着いているようです(日本での誤用:言葉の使われ方の違いから導かれるもの (bias-research.blogspot.com))。

 アンコンシャス・バイアスに向き合い対応するためのポイントとして、以下の3つが挙げられています。
 
 1. 自分自身の普段の言動に、決めつけがないかを意識する
 2. 表情や態度など相手のサインに注意を払う
 3. 自分とは異なる価値観や考えを否定せず、その人の背景を理解する

 この1と2は、内閣府男女共同参画局の記事と類似しています。それに対する指摘は「1.内閣府男女共同参画局「共同参画」2021/5(アンコンシャス・バイアスへの気づきは、ひとりひとりがイキイキと活躍する社会への第一歩)」を読んでいただければと思います。
 3は、良い人間関係のための基本的な考え方だと思います。これが特にアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)のための対応策とするには、その心がけがアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)軽減に有効だったという研究成果が待たれるのではないでしょうか(潜在的バイアス(アンコンシャス・バイアス)は克服できる? (bias-research.blogspot.com))。


8. アンコンシャス・バイアス(無意識バイアス) | 用語集 | 株式会社クオリア
 「無意識の偏見」と紹介している部分は適当では無いと考えます(潜在的バイアスと、偏見:「無意識の偏見」という訳について (bias-research.blogspot.com))。
 また、それは必ずしも「女性や若い人に対して見下したような態度や軽く扱うような言葉を投げかけたり、マイノリティを無視するような心無い発言をしたり、相手の発言に対し、眉をひそめる、腕組みをする。パソコンに目を向けながら話を聞く態度をとる。」といった失礼な言動に出るとは限りません(潜在的バイアスの研究は、何を解きたいのか?: 性別の異なる履歴書と、一夜にして有名 (bias-research.blogspot.com))。
 さらに、様々なバイアスが挙げられていますが、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)はバイアスの総称として扱うのは適切ではないと考えます(アンコンシャス・バイアス、それはバイアスの総称?? (bias-research.blogspot.com))。


9. アンコンシャス・バイアスを体感しよう|福岡県女性の活躍推進ポータルサイト『女性がリードするフクオカのミライ』
 これまで指摘してきた内容と重複しますので、割愛します。


10. アンコンシャス・バイアスとは|具体例から理解する、組織への悪影響 - 『日本の人事部』
 これまで指摘してきた内容と重複しますので、割愛します。


その他:男女共同参画学協会連絡会のリーフレット

『「無意識のバイアス – Unconscious Bias -」とは、誰もが潜在的に持っているバイアス(偏見)のことです。育つ環境や所属する集団のなかで知らず知らずのうちに脳にきざみこまれ、既成概念、固定観念となっていきます。バイアスの対象は、男女、人種、貧富など様々ですが、自覚できないために自制することも難しいのです。無意識のバイアスは色々な判断をする過程において便利なショートカットの役割を果たします。』

 アンコンシャス・「バイアス(偏見)」と書くことには注意が必要だと思われます。偏見とバイアスとは心理学上注意深く扱うべき用語であり、「バイアス(偏見)」とだけ記載されていると、読者に「バイアスすなわち偏見」と受け取られかねません(潜在的バイアスと、偏見:「無意識の偏見」という訳について (bias-research.blogspot.com))。
また、「無意識のバイアスは色々な判断をする過程において便利なショートカットの役割を果たします。」との文言も取り扱いに注意が必要です。この「ショートカット」と「バイアス」は、ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)が著書「ファスト&スロー」(Thinking, Fast and Slow)がその概念を説明している用語を指していると推察されます。このパンフレットでは、無意識のバイアスについての研究に貢献した人物として彼の名前が第一に挙げられているところからもそれが伺えます。しかし学術的には、「無意識のバイアス(Unconscious bias)」は判断へ影響を与えるバイアス全般という意味ではなく、”Implicit/unconscious bias”、つまり「潜在的/アンコンシャス・バイアス」という用語として扱われています。そしてそれ潜在的態度や潜在的ステレオタイプに関わるものであって、例えば確証バイアス等を含む事は適当ではないと考えます。現状のリーフレットでは、バイアス全般と潜在的バイアス(アンコンシャス・バイアス)は同じであると混同させるような記載になってしまっています(アンコンシャス・バイアス、それはバイアスの総称?? (bias-research.blogspot.com))。「アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は、バイアスの総称としては扱われていません。」といった断り書きが必要ではないでしょうか。

 また、「無意識のバイアス」にはどのようなカテゴリーがあるのでしょうか?
とあり、ステレオタイプ・スレットなどが挙げられています。無意識のバイアス(Unconscious Bias/Implicit Bias)が要因となってそういった現象として現れる事があるとは思いますが、それら自体は、無意識のバイアス(Unconscious Bias/Implicit Bias)のカテゴリーに分類されるわけではないと思います。

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