Generated image fo books and magazines.
それは決めつけや押しつけの言動に現れるのか
日本では、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)が決めつけや押しつけの言動として現れるとされています(守屋, 2019、塚越, 2019)。
決めつけや押しつけの言動の例として、以下が挙げられています(守屋、2019/7, 8)。
『最近の若手は〇〇だ
最近の新人は△△だ』
決めつけや押しつけの言動は「自己防衛心」から生まれるとされています。自分は間違っていると認めない考えや上下関係では立場が上の者が常に正しいとする考えが、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)として挙げられています。そのような考えを持っている人が、相手から想定していなかった反応や結果を受けたとき、自分ではなく相手に非があるとする、例えば「指導者の私は悪くない!悪いのは若手のメンタルが弱すぎるからなんだ!」といった言動につながる、と述べられています(以上、守屋, 2019)。
しかし、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は、そういった本人の考え方や信念を指す用語ではありません。
また、このような決めつけ・押しつけの言動は「独善的」「身勝手」「責任転嫁的」な言動であり、社会生活を行う上で軋轢を生み出す、礼儀作法や意思疎通方法上の問題であるといえます。
潜在的に観測される態度やステレオタイプは、分かりやすい言動に現れるとは限らないものです(潜在的バイアスの研究は、何を解きたいのか?: 性別の異なる履歴書と、一夜にして有名 (bias-research.blogspot.com))。
参考:
「「アンコンシャス・バイアス」マネジメント」2019/5/22 守屋 智敬
会計・監査ジャーナル:日本公認会計士協会機関紙「ダイバーシティ 会計プロフェッショナルファームの働き方改革実現に向けて(第9回)「働き方改革関連法施行後に留意すべきこと:無意識の偏見」2019/5 塚越 学
共済と保険「いま話題のテーマ!「アンコンシャスバイアス」を知る、気付く、意識する(4)アンコンシャスバイアスは、なぜうまれるのか?」2019/7, 8 守屋 智敬
「自己防衛心」という言葉
「潜在(Implicit)という用語」で紹介しましたが、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は潜在的記憶の研究を由来に持っています。その由来を総括的に述べた文献に、「自己防衛心」に関わる記載はありません(Greenwald & Banaji, 2017)。
しかし日本では、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の正体は「自己防衛心」とされています(守屋, 2017, 2019)。これは、どこから来た言葉なのでしょうか?
有名なアンコンシャス・バイアスのコンサルタントである守屋智敬さんの著書(2017, 2019)の参考文献の中で、「防衛的思考」が重要な単語として何度も取り上げられている、クリス・アージリス著「組織の罠」(2016/3/30)という本があります。
『結論としては、人々がモデルI(注1)の実用理論と防衛的思考を用いると、罠が生起し持続するということにある。罠は、人々をして無能力と無意識の熟練者に仕立てあげ、人々は個人的責任を否定して頬被りし、また当面する問題への議論は立入禁止とし、さらにそうした議論への立入禁止自体も無かったことにする、という自己防衛の行動をもたらすのである。』(「組織の罠」)
注1:モデルIとは、次の4つの価値を持ち、根本的で破壊的な変化に対してわが身を守り防衛するモデルです(「組織の罠」)。
1. 一方的に統制せよ
2. 勝て負けるな
3. 弱気は見せるな
4. 合理的に振る舞え
この本におけるこの「無意識」という意訳により、「自己防衛心が「無意識」のバイアスの正体である」と結論づけられた可能性あります。
「無能力と無意識の熟練者」と訳されていますが、原文は”skilled incompetence, skilled unawareness”です。上記挙げた部分以外でも、”unawareness”はしばしば「無意識」と訳されています。
Unawarenessは、認識、知覚、または知識を持っている、または示している事の否定の形です。
アージリスは、この文章に先立ちモデルIに関わる説明でも”unaware”を使っていますが、そちらでは日本語では「気づかない」と訳されています。
『モデルⅠとその防衛的思考を用いる際、人々は自ら矛盾や不一致を生み出していることに気づかない(unaware of gaps and inconsistencies)という事実は、どのように説明できるのか。もし人々が意図的に矛盾や不一致に気づかないようにしているのであれば、モデルⅠとその防衛的思考を用いている時に、なぜそれに気づかないのか。 (…) 人々が気づかないのは、彼らがモデルⅠとその防衛的思考を生み出すことに熟練しているからである。人々がモデルⅠとその防衛的思考を生み出すためには、実践を重ねて熟練の高みにまで到達することが必要である。その結果、モデルⅠの行為とそれに関連する思考は、自然に発生し、当たり前のものとなる。まさに暗黙裡のものとなる。ひとたび行為や思考が暗黙裡のものとなれば、もはや人々は自らの行為や思考に注意を払うことはしない。これゆえ、行為中に気づかないのである。』(「組織の罠」、強調はブログ筆者)。
しかし、アージリスの語るような組織で生き残るための暗黙裡の行為や思考と、IAT等で炙り出される人や集団の属性に関わる潜在的なバイアスとは、別の事です。
ついでながら、「組織の罠」では、「防衛的思考」は組織人が持つ(保身の)思考枠組であって、臨床心理学上の定型的な防衛行動ではなく、また社会心理学上の認知的不協和でもない、と述べられています。もしこの「防衛的思考」をこれらの心理学上の言葉と混同し、上記の誤ったアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の解釈の範囲を拡大するとしたら、それは不適切です。
参考:
「あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです」守屋智敬 2017/11//1
「「アンコンシャス・バイアス」マネジメント」守屋智敬 2019/5/22
「組織の罠」クリス・アージリス2016/4/19、原著”Organizational Traps” 2010/4/29
https://www.merriam-webster.com/dictionary/aware
https://banaji.sites.fas.harvard.edu/research/publications/articles/2017_Greenwald_AP.pdf
「無意識の思いこみ」という言葉
アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は、「無意識の思いこみ」と意訳されることがあります。
『アンコンシャスバイアス研究所では、日本語意訳をそえる必要がある場合には、「無意識の思い込み」を意図的に採用しています。(中略)最も大きな理由は、アンコンシャスバイアスは、「相手」に対するものだけでなく、「自分自身」や「モノ」に対するもの等もあるからです。「自分自身に対するアンコンシャスバイアスとは?」一例をあげると、「私にはどうせ無理だ…」などがあげられます。自分自身に対するアンコンシャスバイアスを日本語で表現することを思うと、偏見ではなく、「私にはどうせ無理だと無意識に思い込むこと」としたほうがよいとの考えに至りました。また、様々事例に日本語をあてはめていったときに、「無意識の偏見」という意訳では、フィットしないと感じるものが様々にあったため、「無意識の思い込み」という意訳を採択するに至りました。』
同団体の理事でもある守屋さんの著作(2019)の記載では、心理学上の症候群(「自分を過小評価するインポスター症候群」)や、自分に都合のいい情報ばかりに目が行ってしまう確証バイアス、周りが変化していたり危機的な状況が迫っていても「自分は大丈夫」と自分に都合のいいように思い込んでしまう正常性バイアスをアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)と捉えています。
参考:
「あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです」守屋智敬 2017/11/1
「「アンコンシャス・バイアス」マネジメント」守屋智敬 2019/5/22
より幅広い定義も
『この「アンコンシャス・バイアス」という言葉は、偏見だけでなく、もっと広い意味があります。たとえば「これまで成功し続けてきたわたしの判断は、常に正しい」といった成功体験や、「私は以前こんな失敗をした。だから今回もダメなはずだ」といった失敗経験のように、過去にとらわれた言動もアンコンシャス・バイアスの1つです。さらに、「少しくらいの遅れなら問題ないだろう」「この程度のミスなら報告しなくても大丈夫だろう」といった慢心した考えを持ってしまうのも、アンコンシャス・バイアスなのです。』(守屋,
2017)
このような言動や考えは、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)とはされていません。
参考:
「あなたのチームがうまくいかないのは「無意識」の思いこみのせいです」守屋智敬 2017/11/1
Comments
Post a Comment