潜在的バイアスの提唱者の一人である、バナージ教授の談話の概要を紹介します。
Mahzarin R. Banaji | Department of Psychology (harvard.edu)
----
潜在的バイアスは学習されたものであるから、それは変えることが出来る、とされています。しかし、それは簡単ではなく、まず人は自分にバイアスを持っていると自分に納得させる必要があります。そして、「自分がそうならないように言いきかせればよい」と結論付けるとしたら、それは誤りです。
Calvin K. Laiらの研究では、どのような介入が人種IATのスコアを下げるのか紹介されています。彼らの研究で最も効果があったのは、被験者が否定的な態度を持っている集団に属する人が被験者を助け、肯定的な態度を持っている集団に属する人は被験者を助けない、という想像を被験者にさせることでした。一方、最も効果がなかったものは、被験者に対し平等主義者になるようにと働きかけることでした。
しかしこれら潜在的バイアスを下げる実験の効果は長続きしませんでした。私たちの潜在的バイアスに強い影響力を及ぼす私たちを取り巻く社会が、変わる必要があるのです。
IATは2007年から今まで少なくとも4千万回受験されました。反同性愛バイアス、人種バイアス、肌の色バイアス、年齢バイアス、障害バイアス、体重バイアスの6つのバイアスについて分析しました。2007年から2020年の間、反同性愛バイアスは64%減少しました。変化した順番は、若者と自称リベラルが早かった事が分かっています。
このように、反同性愛バイアスが大きく減少した理由は何でしょうか?
考えられるのは、同性愛であると身近な人が告白するようになったことです。それは宗教的規範に沿う人々の心を葛藤させましたが、告白した身近な人々への愛情が勝った、ということが考えられます。
また、ハリウッドが関与したことも要因として考えられます。その産業には同性愛者が多くいます。そして彼らは、格好良く賢く親切な同性愛者の登場人物を創り出しました。
さらに、政府によってマサチューセッツ州最高裁判所が初めて同性愛の合法化を宣言しました。
このように、個人、組織または制度、そして政府の政策や法律のレベルで対策を実施することが、潜在的バイアスを克服するための方法かも知れません。
『そのため、今日の社会で「システミック」という言葉が以前よりも多く使われるようになったことを喜ぶべきだと思います。「システミック」は「システマティック」とは異なり、システムが関与する必要があることを意味します。そして、システムは個々の人々、機関、大規模な政府組織から成り立っていると主張したいと思います。どれが他よりも重要だとは言えませんが、システムの変革を目指せば、変化はもっと早く訪れると主張したいと思います。』(Copilot翻訳)
---
システマティックとは「体系的な」「組織的な」といった意味として物事を計画的に手順にそって進める事を指しますが、システミックとは「全体的な」「システム全体に関わる」という意味で、潜在的バイアスの問題をシステム全体のものとして捉え対策する事が速い変化を起こすだろう、と提案されています。
以上の談話で「最も効果がなかったものは、被験者に対し平等主義者になるようにと働きかけることでした」という部分は、後に述べる日本での潜在的バイアス(アンコンシャス・バイアス)の誤用に関わる重要な点を含んでいます。後でまた、この内容に戻ってくる事になります。
参考:
https://www.apa.org/news/podcasts/speaking-of-psychology/implicit-biases
https://elsevier-ssrn-document-store-rod.s3.amazonaws.com/16/09/10/ssrn_id2837171_code1859604.pdf
Comments
Post a Comment