第5回 第6次基本計画策定専門調査会を批評してみる -東京都の調査は論拠として弱い-

 第6次基本計画策定専門調査会(第5回)及び計画実行・監視専門調査会議事録 | 内閣府男女共同参画局

掲題の件、見て行きたいと思います。

この会議では前回に引き続き、基本構想、人材・地域・意識、安心・安全という3つのワーキング・グループにおける検討状況が報告されました。

○鈴木委員  鈴木 準 株式会社大和総研常務執行役員

「私から、基本構想ワーキング・グループにおけるこれまでの議論と骨子案のポイントを御説明いたします。(...) 6ページまでお進みいただきまして、「(2)意識・価値観の動向・変化」では、固定的な性別役割分担意識、アンコンシャス・バイアスなど。」

資料(資料1)第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(骨子案) の該当部分はこちらです。

「(2)意識・価値観の動向・変化 〇 男性にも女性にも「主たる稼ぎ手は男性である」といった固定的な性別役割分担意 識が残っていることを示す調査結果(注釈29) もある。それ以外にも、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の存在により、無意識のうちに、性別による差別・区別が生じることもある。働き方・暮らし方の変革の実現にとって、こうした根強い固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込みが大きな障壁となっている。 これらは、往々にして幼少の頃から長年にわたり形成されがちであり、若い世代では年齢を重ねるにつれ、親や学校の先生を含めた身近な人間関係やSNS、メディア など周囲からの影響を数多く受けることで「性別による無意識の思い込み(アンコン シャス・バイアス)」を抱くことが考えられることから(注釈30)、幼少期から性別に基づく固定観念を生じさせないことが重要となっている。成人に対しても、固定的な役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消に向けた取組を継続して行っていく必要がある。」

(注釈29) 内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」(令和6(2024)年9月)によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方について、「賛成」「どちらかといえば賛成」と回答 した人が男性 37.5%、 女性 29.3%。

(注釈30) 東京都「令和5年度性別による「無意識の思い込み」に関する実態調査」(令和6(2024)年3月) によると、小学生に比べ高校生、また、高校生の中でも上の学年の生徒の方が、職業に対する性別 による思い込みを持つ人が多くなることが認められた。内閣府「男女共同参画社会に関する世論調査」(令和6(2024)年9月)によると、進路選択に影響を与えるものとして、「母親」、「父親」次 いで、「友人や先輩」、「学校の先生」、「インターネットやSNS」、「本、漫画、テレビやアニメ」の 順に多くなっている。

→ 東京都の調査を参照しながら、若い世代では年齢を重ねると環境の影響によってアンコンシャス・バイアスを抱く事が考えられる、と述べている部分は論拠が弱いです。

この東京都の調査では、令和4年度に実施した小学5, 6年生と、翌令和5年度に実施した高等学校1, 2年生を比較しています。調査の目的は、過去の経験や見聞きしたことにより形成されているアンコンシャス・バイアスの影響について知る事です。しかし上記の比較だと、その世代によるものなのか、年齢を重ね経験を増した中で抱いた意識によるものなのか、アンコンシャス・バイアスによるものなのか、切り分けが出来ません。

また、年齢が上がる → 性差を意識、アンコンシャス・バイアスを抱く、という仮説を立てていますが、多様な人と接する経験 → 固定観念で見なくなる、アンコンシャス・バイアスが弱くなる、という可能性も考えられます。つまり、この調査からは何とも言えないのではないかと思います。

そもそも、東京都の上記の様な意識調査からは潜在的バイアス(アンコンシャス・バイアス)の有無を論じる事は出来ません。潜在的バイアスは、以下の様なテストで計測されるものだからです(アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)を測るテスト、IAT)。また、定義として過去の経験によって形作られるのが潜在的バイアスであり、「周囲からの影響を数多く受けることで(...)抱くことが考えられる」と推測するものではないです。今回は「身近な人々やSNS、メディア等の影響による潜在的ジェンダー・バイアスの存在が仮定される。」といった文言とし、東京都の調査は引用しない方が良いと思います。

因みに、以下は令和4年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究 | 内閣府男女共同参画局の意識調査結果の一部です。


一見保守的な考えを持っている人の割合(「そう思う」と回答した人の割合)は、若い年代の方が多くなっているようです。よって、年齢が高くなる程「保守的な考えを持っている」、ひいては「性別による無意識の思い込みがある」といった説明するのは、必ずしも妥当ではないと思います。

この東京都の調査は、「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する実態調査」という名前ですが、設問にある「固定観念」を「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)」である、という誤解を招くので変更して頂きたいと思います。実際、多くの人々が両者を混同しています。

上記の様々な理由から、「第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(骨子案)」がこの東京都の調査を論拠として参照するのは、足元を危うくさせるものだと思います。


資料、(資料1)第6次男女共同参画基本計画策定に当たっての基本的な考え方(骨子案)を見て行きたいと思います。


29, 37ページ:「職場における固定的な性別役割分担意識や、無意識の思い込み(アンコンシャス・ バイアス)は女性のキャリア形成の障壁ともなっており、その解消のための周知啓発や、学生等を対象としたキャリア形成支援等に関する周知啓発等を行い、職業生活における女性の活躍推進を促す。」

→ 今まで行政が行っていたのは「意識調査」であり、太字部分の論拠は無いと思っています。


60, 103ページ:「未就学児がジェンダーバイアスにより自分の可能性を狭めてしまわないよう、幼少期の教育現場等における固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコ ンシャス・バイアス)の解消に資する方策について周知・普及に努める。」

「理工系分野に関する女子児童・生徒、保護者及び教員の理解促進 ① 大学、研究機関、学術団体、企業等の協力の下、女子児童・生徒、保護者及び教員に対し、理工系選択のメリットに関する意識啓発、理工系分野の仕事内容、働き方及び理工系出身者のキャリアに関する理解を促すとともに、無意識の思い込み(ア ンコンシャス・バイアス)の払拭に取り組み、女子生徒の理工系進路選択を促進する。」

→ 教育、特に未就学児に関する施策には大きな責任が伴う事から、最大限慎重にすべきだと思います。潜在的バイアス(アンコンシャス・バイアス)の解消に資する方策については、日本において学術的知見が殆どありません(領域と地域が用語に与える影響への所感)。

まず関係者は「無意識の思い込み」という奇妙な用語の定義について検証するところから、始めなければなりません(心理学の辞典にはない「アンコンシャス・バイアス」と、独自解釈ならば問題なし?)。

ところで、現在、児童に対し「思い込み」「偏見」「性別役割分担意識」「文化の違い」「知らなかった事」等、何でも「アンコン」と呼ばせようとする動きがあります(「アンコンシャス・バイアス」教科書問題について 1イベント報告2025 - ハットニャール博士)が、国際的・学術的に誤用である事、語彙の貧困を招く可能性や自分を疑わせる事による悪影響について、十分に精査されていません。この様に言葉だけが独り歩きしない様、早急に質を担保する仕組みを構築して下さい。


93, 94ページ:「第9分野 地域における男女共同参画の状況に応じた取組の推進」

「地域に根強い固定的性別役割分担意識等の解消 ① 固定的な性別役割分担意識や性差に関する偏見の解消に資する、また、固定観念や 無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)を生じさせない取組に関する情報収集を行うとともに、啓発手法等を検討し、情報発信を行う。」

「③ 若者や女性の「働きがい」と「働きやすさ」の両面を向上させていく「地域働き 方・職場改革」を起点とし、無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)を含めた地域社会の変革に取組む。今後、3~5年程度における先行的な地方公共団体の成果等の蓄積を通じ、全国的な波及を目指していく。

→ 地方創生で用いられる行政の資料で「アンコンシャス・バイアス」という用語は誤用されています(地方創生2.0:第一回有識者会議 - 地方ではなくコンサルが潤う -地方創生2.0:第二回有識者会議 - 石破首相の資料における誤用の重大性 -地方創生2.0:第三回有識者会議 - 富山県と奈良県におけるコンサルタントの誤用事例 -)。有識者会議に参加されている方々や内閣総理大臣を含む関係者に、この用語の意味を適切に知って頂く必要があると思います。


102, 103ページ:「第11分野 教育・メディア等を通じた男女双方の意識改革、理解の促進」

② 初等中等教育において、男女共同参画の重要性についての指導が充実するよう教員研修の充実、副教材の普及等を行う。また、こどもたちへの教育や、理工系進学等の進路選択の支援に臨むに当たって、固定的な性別役割分担意識や無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消に向けて、こどもたちの身近な存在である教員の理解促進を図る。」

→ 潜在的バイアス(アンコンシャス・バイアス)をどう理解し、科学的知見を活用するかに依ります(研修やセミナーは、有効なの?)。現在の日本で展開されているのは、ほぼ誤用に基づいています(「アンコンシャス バイアス」で検索したサイトについて、論じてみる)。そして研修やセミナーが活発に行われていますが、ほとんどの効果は検証されていません(研修やセミナーは、有効なの?)。


2026/01/01 「年齢を重ね経験を増した中で抱いたアンコンシャス・バイアスによるものなのか、切り分けが出来ません。」→ 「年齢を重ね経験を増した中で抱いた意識によるものなのか、アンコンシャス・バイアスによるものなのか」

Comments