地方創生2.0:第一回有識者会議 - 地方ではなくコンサルが潤う -

地方創生2.0に関わる文脈でも、「アンコンシャス・バイアス」が用いられていますので、その用法と内容について意見を述べたいと思います。

地方創生2.0は、「新しい地方経済・生活環境創生本部」による企画名です。以下を目的としています。

「国民の持つ価値観が多様化する中で、多様な地域・コミュニティの存在こそが、国民の多用な幸せを実現する。そのためには、一人ひとりが自分の夢を目指し、「楽しい」と思われる地方を、民の力を活かして、官民が連携して作り出していく必要がある。「都市」対「地方」という二項対立ではなく、都市に住む人も、地方に住む人も、相互につながり、高め合うことで、すべての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会を実現する」
(地方創生2.0の「基本的な考え方」令和6年12月24日 新しい地方経済・生活創生本部決定 honbun.pdf

そして、その基本的な考え方には、以下の様に「アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)」という用語が盛り込まれています。

概要(クリックで拡大)(内閣府地方創生推進事務局、女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチームの資料「地方創生2.0の「基本的な考え方」について」(令和7年1月14日) 001373665.pdfより。右側中程に「アンコンシャス・バイアス」についての記載)

まず、「アンコンシャス・バイアス」を「無意識の思い込み」と日本語訳する事は不適切です。アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)はバイアスの総称ではなく、また「それが偏っていると気づいていないが、普段思っている事」等でもありません。よって、このような記載は誤解を招きます。

ご参考:

さて、この企画の会議で、より具体的に「アンコンシャス・バイアス」が述べられている資料を見ていきたいと思います。

有識者会議第一回(令和6年11月29日、(06_hosokawa.pdf)の冒頭で

「アンコンシャスバイアスあるいは無意識に持っている性別に対する役割分担意識が地方では強く残っているということが指摘されてございます。」

といった事務局の望月さんの発言がありました。
「無意識に持っている性別に対する役割分担意識」とは、意味不明です。おそらく「いつの間にか持っている性別役割分担意識」「それが偏見に当たると思っていない性別役割分担意識」という意図だと思います。

「無意識」とは、フロイトが創始した精神分析における「無意識」か、日常的な「意図せず」「気づかず」といった意味で用いている「無意識」かを区別して使用しなければ、混乱や誤解につながります。

望月さんは「無意識に」を後者の「意図せず」「気づかず」といった意味で用いていると思われます。精神分析でいう「無意識に」「性別分担意識」があるというのは意味をなさないからです。望月さんの言いたい事は、「昔ながらの性別に対する役割分担意識が地方では強く残っている」のように、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)を出さずに表現できる事ではないでしょうか。

次に、小林味愛さんの発言を抜粋します。

性別役割分業も思っているよりもさらにひどくて、お茶くみとか、職種が同じであっても女性は窓口で男性は営業、そのほかに、表には出てこないけれども、職場内結婚をしたら男性よりも昇進させてはいけないという慣習が残っている企業もまだ多くあることが現状だと思っております。また、男女間の賃金の格差も非常に大きいです。職場だけでなく、家庭の問題としても、私たちの世代ですと、社会で子供を育てるという子育て4.0ぐらいの価値観でおりますが、地方にいると、まだ男性は子育てをサポートするという補佐的な業務が前提として子育て2.0の政策が組まれています。ここのギャップが非常に大きくて、この当たり前にある性別役割分業や賃金格差に根本的に介入しない限り、お金をばらまいたところで何ら変わらないと思っております。したがいまして、自治体も、企業についても、このアンコンシャスバイアスにどうやって気づいていただくか、それに対応する仕組みを早急に検討しないと手遅れになるのではないかと思っております。」

上記は、小林さんも述べているように「性別役割分業」の例であり、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の例とは言えません。なぜ「アンコンシャスバイアス」という用語を用いたのでしょうか。

次に、細川珠生さんの発言を抜粋します。

「地方大学の研究の多様化という点ですが、地方大学の入学を促すことと仕事に結びつけるという観点から、地方大学・地域産業創生交付金制度がございます。拝見いたしますと、機械などの理系分野に大変多くて、ジェンダーバイアスをつくるわけではないのですが、男性には一定の効果はあると思う一方、女性についてはどうであろうかと思います。女性が進学で地元を離れた理由に関心のある分野が学べる学校がないというのも資料の25ページにも書かれていますが、例えば、デザイン・アート系や人文系など、女性も関心が持ちやすい分野の充実が必要ではないかと考えております。」

この発言は、細川さんが「科学・技術=男子」「芸術・人文=女性」というステレオタイプを持っている事を示しています。そしてこの事実は、現代日本社会における「科学・技術=男子」「芸術・人文=女性」という「潜在的」なステレオタイプ、すなわちアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の存在も暗に示唆しています。

次の話題として細川さんは「アンコンシャス・バイアスの解消」について述べているのですが、その一方で上記の「科学・技術=男子」「芸術・人文=女性」というステレオタイプを受け入れている事は、これらを大枠で一つの問題としては認識していない可能性が懸念されます。この事から、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)についてどの様な理解をしているのか、疑問に思いました。

アンコンシャス・バイアスの解消について、細川さんは以下の様に述べています。

「地方における、先ほど来から(ブログ著者注:望月さんや小林さんの発言に)出てきております、アンコンシャスバイアスの解消についてです。女性の地方での暮らしにくさに対して、その解消が以前できていないということは、大変深刻な問題だと思います。」

女性の地方での暮らしにくさが、具体的にどういったものであるのか触れられていませんが、望月さんや小林さんが述べた「地方には固定的な性別役割分担意識があるとされる事」を指すと思われます。しかし、それを従来から用いられている「性別役割意識」と呼ばず「アンコンシャスバイアス」と呼び替える必要性はどこにあるのでしょうか。そして、「性別役割意識」は意識であって、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)ではありません。

さて、小林味愛さんは以下の様に、交付金の使い方を検証すべきだとも述べています。

「地方創生の計画と交付金の在り方についてです。地方創生の予算で、一体この10年間で誰がもうかったのかということを検証いただきたいと思っています。私は、前職で、地方創生に関わる東京の大手コンサルティング会社で働いていましたが、当時、頑張ったつもりではおりますが、地方の賃金は上がらず、付加価値労働生産性も上がらず、明確に上がったのは東京で働く私の給料でした。地方が自由度が高く使える交付金というものも大事ではあるのですけれども、このままいくと、それの繰り返しになるのではないかと思っております。国の意思として、一定のルール、例えば、地元の資本がきちんと入っているかなど、何を優先的に採択するかということをぜひ御検討いただきたいと思っております。」

検証が必要である事は、アンコンシャス・バイアスを扱う事業についても言えます。現在の日本ではアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)に関する事業を導入する際、定義や効果を多角的に検証をしている組織は行政や教育機関を含めて皆無といって良いでしょう。このままでは、アンコンシャス・バイアスを扱うコンサルタントや研修業者が潤う事が最大の成果、で終わる可能性があります。

国の予算を割いて行うこの企画ですが、アンコンシャス・バイアスという言葉は何度も登場するにも関わらずその意味に対する理解は、上記指摘した様に不十分だと考えます。行政にはこの言葉の意味を正しく知って頂けるよう、引き続き働きかけて行きたいと思います。

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