ハーバード大学の行動経済学者、イネス・ボネットの著書「WORK DESIGN 行動経済学でジェンダー格差を克服する」の内容を紹介します。
倫理観を持ってつねに自分の行動や姿勢をチェックし、その根本的原因を分析し、対処法を自分に言い聞かせている人はそれ程いません。企業のダイバーシティ研修の多くはこの点を考慮しておらず、予算を浪費しています。このテーマに関する大規模な研究の1つに、1000件近くの研究結果を調べた論文があり、その最も強力な結論は、こうした取り組みの実効性を裏付ける「証拠は乏しい」というものでした。
『(論文曰く、これらの取り組みは)全面的に効果がまったく検証されていない。』(「WORK DESIGN 行動経済学でジェンダー格差を克服する」)
ダイバーシティ研修を行うと、それが免罪符になると人は感じて完全に逆効果になる可能性もあります。喫煙とマルチビタミン剤の実験があります。実際は全員が偽薬を飲んでいたのですが、マルチビタミン剤を飲んだと思っていた人たちは、煙草を吸う割合が大きく、運動や健康的な食事を実践する割合が小さかったのです。
『以上の点を考えると、ダイバーシティ研修には効果がないと結論づけざるをえない。少なくとも、どのような条件下で効果があるかを判断できるだけのデータはない。このような研究結果を知れば、ダイバーシティ研修に莫大な金額を費やしている企業は方針を再検討すべきだ。』(「WORK DESIGN 行動経済学でジェンダー格差を克服する」)
研修やセミナーの在り方に一石を投じる意見は日本からも出ています。
『現在の就業者向けの意識啓発の研修本、企業研修プログラムの多くは、残念なことに客観的なデータによって効果が検証されたものはほとんどないと思われます。(…)参加者アンケートに「効果がありました」「受講してよかった」という意見があったということをもって、研修効果があったと宣伝しているものが散見されます。(…)どのような人にどんな効果があったのかということを常に確かめながら、工夫して進めていく必要があるのです。』(「職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック」)
以上のように、科学的に検証されない研修やセミナーに、効果があるとは客観的に判断できない、という事が学者からは指摘されています。研修やセミナーを開催する組織は、この指摘がもし当てはまるのなら、重く受け止め改善して行く必要があるでしょう。
参考:
Amazon.co.jp: WORK DESIGN(ワークデザイン):行動経済学でジェンダー格差を克服する : イリス・ボネット, 大竹 文雄(解説), 池村 千秋: Japanese Books
Amazon.co.jp: 職場で使えるジェンダー・ハラスメント対策ブック: アンコンシャス・バイアスに斬り込む戦略的研修プログラム : 小林敦子: Japanese Books
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