アメリカでDEI推進活動が制約され始めた件

Xで、マクドナルド(Our Commitment to Inclusion at McDonald’s 2025/01/06)のDEIの数値目標設定廃止等や、メタ(More Speech and Fewer Mistakes | Meta 2025/01/07)のファクトチェック廃止等、アメリカでのDEI(Diversity, Equity, Inclusion; 多様性、公平性、包括性)推進に反するような決定が話題になっています。しかし、これは今に始まった事ではありません。

これは、2024/05/22 の記事です。概要を示します(翻訳はCopilot)。

Anti-DEI Legislation Tracker | BestColleges

「アメリカ全土で、州の立法者たちが州立機関における多様性、公平性、包括性(DEI)プログラムを制限する法案を提案しています。これらの法案は、DEIオフィスや担当者の資金を削減することから、採用時の多様性声明を削除することまで、さまざまな取り組みに影響を与える可能性があります。アメリカのほぼ半数の州が、反DEI法案を提案しているか、または起草中である可能性があります。2024年5月にアイオワ州は、これまでに可決された中で最も極端とされる反DEI法案を成立させました」

以下の図は、そういった法案が提出されていない(No bills introduced)、間接的に影響を与える法案を導入している(On watch)、州議会に提出された(Bills introduced)、法律として効力を持つ(Signed into low)、を示しています。

これは、2024年アメリカ大統領選挙で共和党(トランプ氏)もしくは民主党(ハリス氏)が獲得した州の分布と似ています(2024 United States presidential election - Wikipedia)。保守的な州と法的に制約をかける動きに相関があると言えそうです。

この記事の時点で、全米で30以上の法案が、学校におけるDEI活動への資金提供、実践、そして促進について対象としている、とあります。

最も極端とされるアイオワ州で可決されたものは、以下になります。

「今年4月、アイオワ州で予算法案(Senate File 2435)が導入され、州立大学や大学でのDEIオフィスを禁止し、機関が推進できる職位や見解の種類を制限する条項が含まれています。学校が推進できない見解には、アライシップ、反人種差別、マイクロアグレッション、システミック抑圧、ジェンダー理論、トランスジェンダーイデオロギーなどが含まれます。

SF 2435は月末までに登録され、2024年5月9日にキム・レイノルズ知事によって正式に法律として署名されました。」

以下は、各州ごとの禁止事項とその通過状況のまとめです(自動生成)。

禁止事項通過状況
アラバマ州DEIオフィスやプログラムの推進、支援、維持の禁止。特定の「分裂的な概念」の肯定の禁止。2023年3月20日に法案が署名され、10月1日に施行予定。
アリゾナ州従業員にDEIプログラムへの参加を要求すること、公的資金をDEIプログラムに費やすこと、DEIオフィスの設立の禁止。2023年4月4日に下院規則委員会で可決。
アーカンソー州アファーマティブ・アクションプログラムの使用禁止。人種、性別、肌の色、民族性、国籍を考慮することの禁止。2023年5月1日に上院で廃案。
フロリダ州DEIプログラムの推進、支援、維持の禁止。特定の一般教育コースの提供の禁止。2023年5月15日に法案が署名され、施行。
ジョージア州入学や昇進における「政治的リトマス試験」の使用禁止。委員会で廃案。
アイダホ州採用および入学の決定における多様性に関する声明の禁止。2023年3月21日に法案が署名され、施行。
インディアナ州学生に性別や性的多様性のトレーニングやカウンセリングへの参加を要求することの禁止。教育委員会に付託中。
アイオワ州DEIオフィスの禁止。特定の職位や見解の推進の制限。2024年5月9日に法案が署名され、施行。
カンザス州政治的イデオロギーの支持に基づく入学や援助の提供の禁止。2024年4月19日に知事の署名なしで法律となる。
ケンタッキー州「分裂的な概念」の推進の禁止。人種や性別に基づく奨学金、DEIオフィス、DEIトレーニングの禁止。上院で廃案。
ルイジアナ州人種、性別、国籍に基づく奨学金、助成金、財政援助の提供の禁止。委員会で廃案。
ミズーリ州DEI声明の使用禁止。審議中。
モンタナ州雇用条件としての多様性トレーニングの禁止。審議中。
ネブラスカ州DEIオフィスおよび役員の禁止。研究に変更。
ノースカロライナ州政治的または社会的信念に関する質問の禁止。審議中。
ノースダコタ州イデオロギーや政治的見解に関する質問の禁止。2023年4月24日に法案が署名され、施行。
オハイオ州DEIコースやトレーニングの禁止。審議中。
オクラホマ州DEIオフィスの資金提供の禁止。審議中。
オレゴン州人種、民族、性別、宗教に基づく優劣の信念の禁止。審議中。
サウスカロライナ州多様性トレーニングおよびDEI声明の使用の禁止。審議中。
サウスダコタ州「分裂的な概念」に関する必須トレーニングの禁止。2022年3月に法案が署名され、施行。
テネシー州DEIトレーニングおよび教育の禁止。審議中。
テキサス州DEIオフィス、DEIトレーニング、イデオロギーの誓約や声明の禁止。2023年6月14日に法案が署名され、2024年1月1日に施行予定。
ユタ州DEIオフィスの設立、DEI声明の使用の禁止。2024年1月31日に法案が署名され、7月1日に施行予定。
ウェストバージニア州

多様性トレーニングの禁止。審議中。
このように、近年多くの州がDEI活動を公的に行う事の禁止法案を施行、もしくは審議している事が分かります。
これらの法案は、DEI活動が逆差別を助長している、DEI活動が経済的負担を増やしている、積極的差別是正措置が違憲とされた、といった認識に基づいているようです。
いずれにせよ、日本でも様々な組織が予算をDEI推進に割き、玉石混交の人々がそれを営みとしています。それを公的に禁止する法案が施行されているという実例について調査考察し、その内容や費用対効果について見直す時期だと思います。

2025/03/01追記
上記アイオワ州の法令(S. F. 2435)を確認しました。「アンコンシャス・バイアスもしくは潜在的バイアス」とあり、書き方からは同列/同義としている事が分かります。


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