第2回 第6次基本計画策定専門調査会を批評してみる -行政は品質を担保する必要がある-

掲題の件、見て行きたいと思います。

口頭で各委員が活発に「アンコンシャス・バイアス」について言及し、とても興味深い内容でした。


○大崎委員(特活)Gender Action Platform理事)

「金融庁のほうで、スタートアップ界隈におけるジェンダーの多様性に関するアンケートという大変すばらしいアンケート調査結果を最近出されていて、この中に様々なジェンダーに、アンコンシャス・バイアスを含めて構造的な問題に関しても聴き取りや分析ができた非常にすばらしいレポートが出ておりますので、それをベースにした取組を検討されているのかということをぜひお伺いしたいです。」

→ dei_startup02_1.pdf こちらの資料と思われます。

要約では

「女性活躍の社会認識の問題(女性特有の視点やニーズへの理解不足、アンコンシャスバイアス)が背景にあり、女性起業家のスムーズな資金調達に影響を与えていると考えられることから、女性起業家の置かれている現状*の改善に向けた支援を強化していく必要がある。」

とあります。そして「アンコンシャス・バイアス」に関わる調査内容として、アンケートを実施し女性の個人回答者で最も多かった意見が

「VCを含む金融機関・評価者に男性が多く、女性特有のビジネスニーズや視点への理解不足やバイアスがある」

と紹介されています。そして今後の検討事項として

「統計データ等を通じた正確な実態把握が、必要に応じて官民で的確な対策を講じていく上での基礎となるため、継続的なデータ整備が重要と言える。加えて、継続的な調査を行うことで、スタートアップ全体への支援及びエコシステム全体のアンコンシャスバイアスの注意喚起につながる効果を期待できる」

と述べています。

しかし、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)は以下の様なテスト(アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)を測るテスト、IAT)で間接的に計測されるものであり、日常生活でその有無を判断する事はできません。おそらくこの資料の本意は「アンコンシャス・バイアスの存在が示唆される」という問題提起だったのではと想像しますが、個人の「バイアスがある」という意見によって「アンコンシャス・バイアス」の存在が確定的になるような印象を与える文言となっており、留意が必要です。


〇岡田局長(内閣府男女共同参画局)

私どもが実施しました調査を使いながら、性別による無意識の思い込みの解消をしていただく参考にしていただくような動画なども作成して公開しております。

→ 岡田さんは「アンコンシャス・バイアス」を「無意識の思い込み」と意訳し用いています。この意訳が大きな誤用をもたらしたと考えられるのですが、詳しくはこちらをご覧ください(心理学の辞典にはない「アンコンシャス・バイアス」と、独自解釈ならば問題なし?)。

同局による「アンコンシャス・バイアス」で検索される動画は30本以上あります(内閣府男女共同参画局公式YouTube - YouTube)。代表的なものを視聴しましたが、扱っているのは「顕在的バイアス」「ステレオタイプ」「性別役割分担意識」「価値観」「偏見」といったものでした。

例えば、【全体版】性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)の解消等に向けた普及啓発用動画 - YouTubeでは「「家事・育児は女性がするべきだ。」と決めつけることは、アンコンシャス・バイアスにあたります。」述べていますが、このように当人が意識しそのように直接的に表明しているものは「顕在的バイアス」です。


〇江﨑審議官(文部科学省)

「また、教員研修プログラムにおきましては、アンコンシャス・バイアスに関わる11の教育現場の身近な場面を示したケース動画を用意しておりまして、教員同士で意見交換をしていただいた中で気づきを促すものとなっております。」

→ 第1回(第6次基本計画策定専門調査会を批評してみる 第1回)でも触れましたが、これは独立行政法人国立女性教育会館(NWEC, National Women's Education Center)が受託し作成したものです。そして内容は「ステレオタイプ」に関わるものになります。文科省に問い合わせたところ、同省では内容に責を負っていないとの事でした。NWEC側にも問い合わせましたが、学術的な文献調査はしていない模様でした。こういった資料が国の名の下に作成され展開されている事は、その影響力を考えると非常に危うい事だと感じます。


〇井上委員(日本労働組合総連合会副事務局長)

「まず、内閣府にアンコンシャス・バイアスの調査について御説明いただきましたけれども、第10分野の「教育・メディア等を通じた男女双方の意識改革、理解の促進」ということでしたが、そもそも性別による偏りが非常に大きい、例えば第3号被保険者制度とか、あるいは女性は結婚したら氏を変えるべきだとか、そのような認識や制度を選択する根底にはアンコンシャス・バイアスがあると思っています。」

→ アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の有無はIATで計測しない限り判断できません。仮定に基づく推論には、それが常に「仮定」の上でという事に注意する必要があります。


○山口委員(東京大学大学院経済学研究科教授)

「過去の研究で、家庭科の男女共修が次世代のジェンダー平等意識につながったということも研究で分かっておりますので、教育の役割は非常に大きいと思います。期待しています。

 前半の内閣府からのアンコンシャス・バイアスに対する啓発事業も、内容はよいと思ったのですが、実際にどれぐらい動画を視聴されているのか、また、見た人が意見が変わる、あるいは反省するようなところがあったのかというところまで踏まえつつ、このプログラムの改善を続けていっていただきたいと思います。

 また、文科省さんが作られている教材、研修プログラムの中身もよさそうには感じたのですが、実際にこれはどれぐらい教育現場で使われているのかというところについては疑問を持ちましたので、よいものがあるのでしっかり展開されていくことを期待しております。」

→ 具体的な研究成果を紹介されており、今後施策に活かされていく事が予想されます。

内閣府や文科省の動画やプログラムを好意的に評価していますが、山口さんは「アンコンシャス・バイアス」に関しどういった理解をしているのか気になりました。行政の施策は「意識啓発」としては良いものだと思いますが、「アンコンシャス・バイアス」という用語を用いたものとしては残念な品質になっているからです。


○大崎委員(特活)Gender Action Platform理事)

「アンコンシャス・バイアスについてです。

第18回の専門調査会でも複数の委員から私も含めまして指摘したと思うのですけれども、アンコンシャス・バイアスというのは、脳のメカニズムで無意識にいろいろな意思決定にそれが働いてしまうということで、それが男女の文脈ですと雇用慣行、雇用の仕組み、人事制度のところにアンコンシャス・バイアスというものが作用してしまう。採用とか評価とか日々のフィードバックの与え方に作用する、これがアンコンシャス・バイアスなので、これをエリミネート、解消することはできないというのが国際的な共通のコンセプトです。ですので、アンコンシャス・バイアスの解消、英語に訳すとeliminate unconscious biasというのは変なのですね。

他方、無意識の思い込みみたいなものをなくしていこうという取組はすごく重要なので、これはこれでちゃんとやるとしても、アンコンシャス・バイアスに関する取組というのはそれが作用しないような制度や仕組みの構築ということですので、そこはしっかりと分けて整理して考えていっていただきたいと思います。」

→ 第18回の専門調査会の資料はこちらです(計画実行・監視専門調査会(第18回)議事録 | 内閣府男女共同参画局)。早くも2022年には「アンコンシャス・バイアス」の用法に複数委員から疑義が上がっている事が分かります。何故これが関係者たちに真剣に取り上げられないのか、理解に苦しみます。

今回、大崎さんは、Unconscious bias という用語が国際的に用いられるものであると明言し、その意味するところを説明しています。そして、「無意識の思い込みみたいなもの」と表現されていますが、つまり今まで文脈によって「文化」や「スキーマ」といった言葉で語られて来たものに対する取組自体の意義を確認しつつ、unconscious bias はしっかりと取り組むべきだと述べています。

私も概ね彼女の意見に同意します。私の考えは以下に詳しく述べています。

「潜在的バイアス」という用語のすゝめ


〇大森課長 (男女共同参画局総務課長)

「大崎委員がおっしゃった無意識の解消と、「アンコンシャス・バイアス」という語をめぐる、これも事前に御説明する中で幾つかの先生からも御指摘をいただいたのですけれども、心理学上、学術上の用語で厳密に我々としての政策を展開しているわけではなく、我々としては性別による無意識の思い込み、固定的な性別役割分担というものをセットで解消の対象としているところでございます。

 ですので、我々としては、まず自分の行動に気づきがあるということを思いつくということ、それに基づきまして政策に生かしていくというところで、大崎委員が御指摘になった2つの点の配慮をしていきながら進めていきたいということを考えてございます。」

→ 大森さんとしては、既に複数人の方々から指摘があり学術的に厳密でないと認めざるを得ない状況かと思われます。しかし、「我々としては性別による無意識の思い込み、固定的な性別役割分担というものをセットで解消の対象としている」は回答になっていません。用語について一度整理をし、誤用をこれ以上広めない取り組みは最優先項目だと思います。


〇江﨑審議官(大臣官房審議官(総合教育政策局担当))

「教員研修のためのプログラムとか、こういった教材についてどのくらい使われているかという質問がございました。今日お渡しした資料の5ページの上のほうの「アンコンシャス・バイアスに気づき、変革につなげるために」というほうは再生回数が4,660回という形になっています。下のほうの教員研修プログラムは、全11本の合計ですけれども、1万5000回ぐらいとなってございます。

 学校の数は小中高を合わせて3万校以上ありますので、そういうことからすると少ないかなという印象もあるかと思いますけれども、我々もこういった動画、教材をしっかり見ていただけるよう、各種の校長会、あるいはPTAの連合会の会議、都道府県や指定都市の教育委員会の関係の会議、こういったところで繰り返し見ていただくような周知は図っております。今後とも努力をしていきたいと思います。」

→ これらの動画は、私が文科省大臣に要望書を提出した通り、疑義が呈されている内容です。周知を図る前に内容について検証し、誤解を招かない形にしてから展開して下さい。


次に、各資料について述べます。

■1(資料6)第5次男女共同参画基本計画(第5分野)の取組状況について 

「賃金格差やL字カーブ、アンコンシャス・バイアスがDVを構造的に引き起こして いる。」

→ これの論拠があれば示して欲しいと思います。


■2(資料7)井上委員提出資料

「夫婦同氏規程により氏を変更する人や、第3号被保険者制度の適用者のほとんどは 女性だが、性別による偏りが非常に大きいこれらの制度については、女性は結婚したら氏を変えるべき、または変えないといけないといったような、アンコンシャス・ バイアスも根底にあると考えている。」

→ アンコンシャス・バイアスがある事を仮定していますが、それと事実を混同しないよう留意しておくことは重要です。仮説を立てたら検証する事が、王道の次の一手になります。


■まとめ

内閣府男女共同局や文科省の方々は、「広める」事が彼らの成果であるように勘違いしている様に思います。品質保証やリスク・アセスメントの考え方は全く抜け落ちている様です。

今後この用語を「広める」につれ、上記の様な疑義を呈する人々の裾野も広がる事と思います。早急に軌道修正する事が吉だと考えます。


2025/12/13 まとめの最後の文、少し本意が分かりにくかったので修正。

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