日本アンコンシャス・バイアス研究会(保存版): 女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム:「アンコンシャス・バイアス」を論じる前に に引き続き、矢田稚子内閣総理大臣補佐官(当時)が石破茂総理大臣に提出した報告書(001463889.pdf)について、今回は「アンコンシャス・バイアス」という用語に焦点を当て論じたいと思います。
この報告書では「アンコンシャス・バイアス」の定義について説明はありませんが、使用例からは、「固定的性別役割分担意識に含まれる何か」をそう呼んでいるようです。
以下、使用例を挙げて意見を述べたいと思います。各ページの述べられた部分に番号を振っています。
37ページ「アンコンシャス・バイアスについて」から:
(1) 固定的性別役割分担意識、とりわけ、女性の活躍を無意識に阻むアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が根深く存在。
→ 文の意味が不明瞭です。固定的性別役割分担意識の1つがアンコンシャス・バイアスであると読めますが、そのようには学術的には分類しないと考えます。「固定的性別役割分担意識や、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)が、女性の活躍を阻んでいると仮定される。」等が適当ではないでしょうか。
(2) アンコンシャス・バイアスを背景に、勤続年数や管理職比率の差や、コース別雇用管理の下で男女の労働者の役割分担が定着している実態がある。
→ 資料として挙げられている「令和4年度「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査」(内閣府男女共同参画局)」が、「男女の労働者の役割分担を定着させている」という結論に至る分析結果は示されていません。それを示す方が理解が得られるのではないでしょうか。
71ページ「教育分野におけるアンコンシャス・バイアスの解消に向けた取組」「教員向け研修 学校における男女共同参画の推進のための教員研修プログラム」 から:
(1)「ケース動画 ナレーション抜粋 放課後、クラスの生徒と雑談している時、生徒は、進学する大学や専攻分野について迷っていることや、親の意見も気にしていることなどを話し出しました。
女子生徒「最近、工学部っておもしろそうと思っているんです。だけどうちの親は、文系のほうが成績がいいのだし、就職先も見つけやすいから文系に行ったほうがいいって言うんです。それに、女なんだから東京なんかに行かないで家から通える大学にしろとか、浪人もダメだとかいうんですよ。どう思います?」
女子生徒の発言や気持ちをどう思いますか。
女子生徒の親の発言や気持ちをどう思いますか。」
→ これは、女子生徒やその親、そして教員の性別役割分担意識、その人の主観、もしくは価値観といったものに関わる話ではないでしょうか。アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)がどのように関与しているのか不明です。また、この資料からは「性別役割分担意識」と「無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)」とを明確に区別しているように読めません。まずは「性別役割分担意識」と「アンコンシャス・バイアス」との関係を明らかにし、何にどのように対処していくかを説明する事が大切だと思います。
72ページ、73ページ「教育分野におけるアンコンシャス・バイアスの解消に向けた取組」から:
「県教育委員会が企業やNPO等と連携し、プログラミング研修やロールモデルに出会う機会を提供するなど、中高生段階での理系進路選択の推進」
「県が、国(文部科学省、内閣府)、自治体(教育委員会、県立高校)、大学、企業、保護者など様々なステークホルダーを巻き込み、女子生徒へのサポートを展開する事例」
→ 扱っているのは、顕在的な意識調査と、女子生徒に対する理工系進路への後押し施策です。これらから、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)について分かる事はありません。この資料では、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)という用語は省くべきではないでしょうか。
81ページ「「女性に選ばれる地域づくりに向けた車座対話」の実施 女性に選ばれる地域づくりに向けた車座対話 ~in 愛知~」 から:
[アンコンシャス・バイアス]
(1)女性が営業職を担うことについて、「犯罪に巻き込まれる」「法人営業は困難」「時短勤務には時間外の営業は難しい」等の声もあったが、犯罪防止対策等を講じつつ営業配置を進めている。「偏見」か「配慮」で悩むこともあるが、女性の意見を聴くことが重要。また、もう一段の取組のためには、男性の育休取得を進め、男女とも家庭に関わることを示さなければ次の世代にもアンコンシャス・バイアスが残ってしまう。(参加企業)
(2)「女性が夜勤をすると何故?と聞かれる」「女性は機械が苦手で検査が得意」「女性は庶務が向いている」「出産適齢期の女性には長期プロジェクトは難しい」等の発言が今も一部で存在。これまで積み上げられてきたアンコンシャス・バイアスの払拭に向けて、総合職と一般職を統合したり、管理職候補の女性とその上司にそれぞれ人事ヒアリングを行い、両者の認識に相違があれば人事に調整する取組を行っている。(参加企業)
(3)社内制度の整備により近年ではあまりないが、かつては「責任の重い仕事を任せないよう「配慮」される」「名刺交換時、男性が先」等はあった。男性の意識面はまだ課題なので、アンコンシャス・バイアスをテーマとした研修を社内で実施、今後結果を分析し、引き続き取り組む予定。(参加企業)
「補佐官からの総括」
(4)他の地域でも同様の課題を抱えており、先日オンライン意見交換を行った富山県では、職場と地域のアンコンシャス・バイアスを解消するための「アンコンかも!」というキャンペーンを工夫している。
→ (1)~(3)は、固定的性別役割分担意識について述べています。
→(4)富山県では一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所の監修を受け施策を展開しています。しかしこの団体は学術的なものとは異なる独自定義を展開しており、彼らの施策の効果は検証されていません。
83ページ「「女性に選ばれる地域づくりに向けた車座対話」の実施 女性に選ばれる地域づくりに向けた車座対話 ~in 栃木~」 から:
[アンコンシャス・バイアス]
(1)(参加した企業担当者の)入社当時は、管理職や法人営業には男性が多く、融資や窓口業務には女性が多く働いていたため、その印象は今もバイアスにつながっているかもしれない。(参加企業)
(2)20年働いてきて、男性は外で働き、女性は家庭を守るという意識は根強い。社内では、善意で「配慮」されたことが、女性の成長とチャンスを奪っているかもしれないので、意識を変えることは重要。(参加企業)
(3)「配達は女性には向かない、厳しい」というイメージはまだ根強いが、育休をとった男性配達員が利用者の方と育児の話題で会話できたと聞き、こうした取組を進めて、変化を期待したい。また、夫が子供の世話をしていると「母親は何をしているんだ」と言われたと夫から聞き、働く場だけでなく周囲の目も変わっていく必要があると思う。(参加企業)
「補佐官からの総括」
(4)理系女性が少ないが、小中高生にロールモデルを見せていくことも、アンコンシャス・バイアスの払しょくには重要。
→(1)~(3)は、愛知県と同様、固定的性別役割分担意識について述べています。
→(4)ロールモデルを示す事で意識の変容に働きかける事により、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の変容が観察される可能性があります。一方、この資料では「アンコンシャス・バイアス」が学術的な定義とは乖離した独自のものになっており、その上で議論を重ねる事は論拠に基づかない空論となります。アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)研究の成果を取り入れるならば、「アンコンシャス・バイアス(unconscious bias)」とは心理学的には「潜在的バイアス(implicit bias)」と呼ばれるものであると認知し、その研究を真摯に学ぶべきだと思います。
93ページ~「(参考)女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム Q&A集」 から:
「Q2 なぜ男女間賃金格差が生じるのか?」の答えの一つとして、「女性の活躍を無意識に拒むアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が根深く存在していること」とあります。
→ 男女間の賃金格差とアンコンシャス・バイアスとの関係を明確に示したデータは、報告書からは読み取れませんでした。そのような証拠を示して頂けるよう要望したいと思います。
「Q5 どのようなアンコンシャス・バイアスがあるのか」の答えとして、「固定的性別役割分担意識、とりわけ、女性の活躍を無意識に阻むアンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)が根深く存在。」「アンコンシャス・バイアスを背景に、勤続年数や管理職比率の差や、コース別雇用管理の下で男女の労働者の役割分担が定着している実態がある。」
→ 37ページについて指摘したのと同様に、最初の文は意味を成さないと思います。その次の文は、Q2で言及したように、データでは読み取れませんでした。
「Q9 教育分野にもアンコンシャス・バイアスが存在するのか?」との問いの答えとして、「STEM(科学・技術・高額・数学)系の専門職の女性割合が極めて小さい」とありますが、この報告書にはそれがアンコンシャス・バイアスが原因であると結論付ける論拠が明確に示されていません。
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