女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム:「アンコンシャス・バイアス」を論じる前に

2025年3月26日(令和7年)、内閣総理大臣補佐官である矢田稚子さんが「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」の座長として、一年間の議論内容の報告書(001463889.pdf)を、石破茂総理大臣に提出しました。

この報告書では、地方創生2.0と同様に「アンコンシャス・バイアス」という用語が沢山出てきます。しかし未だ不適切な使われ方をしているため、言及し意見を述べたいと思います。しかしその前に、Facebookで以下の記事を読んだので、本当に地方に女性がいないのか検証してみました(画像はクリックで拡大します)。

「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」の報告書の21ページ目(下記画像)では、「若年女性が大都市圏に流出した結果、一部地域では未婚者の男女比の不均衡が存在」「若年女性の流出には様々な要因が考えられるが、未婚者の男女比の不均衡と各地域における男女間賃金格差の間には、緩やかな相関関係が観察される。」と述べられています。

しかし、右下の図3の男女間賃金格差と未婚者の男女比の関係のグラフでは、近似曲線のR^2が0.0729となっており、この線はデータについてほとんど説明していない状態です。もう少し考察を深める必要があるのではないでしょうか。

一方、若年女性の流出によって、地方に女性は少なくなっているのか調べてみました。

上記の報告書に年齢を合わせ、各都道府県の20歳以上34歳以下の日本人の男女の割合(男性数を女性数で割った値。以降、男女の割合)をグラフにしてみました。ただし、出生時の性別は男性数が女性数に対し1.05倍であるため、その値以上の地域を濃い色で表しています。


これを見ると、茨城県、栃木県、そして福島県は男性率が高い事が分かりますが、九州地方や関西地方の多くの府県では出生時の男女比を下回る値となっています。

矢田さんは、九州にあるとされる男尊女卑を揶揄する言葉「さす九」についての記事で「これぞまさしくアンコンシャスバイアス。男性は気づかず、女性が静かにその地域を離れていく。生きづらさを感じる女性たちの地方からの転出超過がとまらない・・・。」「若年層の人口移動、都道府県別に見ると、この10年間で、33の道府県で男性より女性が多く流出しています。鹿児島、栃木、富山など、特に多い県では、男性の2倍の女性が去っています。確かに九州全土ではありませんが、各地において、若年世代では男性以上に女性の流出が進んでいる状況です・・・。」とXに投稿しています。



上記の投稿は、九州の男尊女卑が若年女性を生きづらくさせ、それが彼女らの流出につながっている、という印象を人に与えると思います。しかし、九州における若年層の人口に占める女性の割合は、むしろ出生時の女性の男性に対する割合よりも多い事がデータからは示されています。

さて、以下は、出生時の男女数の割合を考慮に入れずデータをそのまま表示させた男女の割合と、20歳以上34歳以下の未婚の男女の割合(以降、未婚の男女の割合)のグラフです。この二つのグラフから、男女の割合が未婚の男女の割合と連動している事が予想されます。



以下は、政令指定都市と各都道府県について男女の割合と未婚の男女の割合の関係を図示したものです。


近似直線のR^2は政令指定都市と都道府県に対しそれぞれ 0.9299 と 0.9223 であり、男女の割合と未婚の男女の割合はこの式で良く表現できているようです。また、政令指定都市と都道府県では重なる区間があります。同じ男女比率の地域を比較すると、政令指定都市では未婚の男女の割合の値が、都道府県より低くなっているのが分かります(例:上図中の矢印)。




例えば、上図は先のグラフの横浜市部分を切り出したものですが、ほぼ同等の男女の割合の北海道、埼玉県、高知県や大分県に比べ、また都道府県の全国平均と比べ、未婚の男女の割合の値が低くなっています。

この事から、政令指定都市にある何らかの特徴が、未婚の男女の割合に影響を与えている可能性が考えられます。

その特徴として考えられるものの一つは、人口密度です。以下に、政令指定都市と都道府県の人口密度と、20歳以上34歳以下の未婚の男女の割合を図示しました。政令指定都市はオレンジ色、都道府県は濃い青色で著しています。R^2は 0.4097 なのでこの式は参考程度の説明力ですが、人口密度が上がると未婚の男女の割合が下がる傾向があります。



一方、人が都市に転出する理由ですが、報告書76ページにあるように、「希望する職種の仕事が見つからないこと」「賃金などの待遇が良い仕事が見つからないこと」「希望することが学べる進学先がないこと」「自分の能力を生かせる仕事がみつからないこと」「日常生活が不便なこと」等、都会における選択肢の多さを各人が活用しようとしているからだ、と考えるのが妥当だと思います。

ここまで、男女間賃金格差と未婚者の男女比の関係のグラフはあまり説明力が無いという事を示しました。また、都道府県における若年女性比率について述べ、九州で若年女性が少ないわけでは無いというデータを示しました。さらに、未婚者の男女比の不均衡は男女比の不均衡から来る事を示しました。そして、政令指定都市の何らかの特徴が、未婚の男女の割合に影響を与えていると予想される事を示しました。加えて、その特徴の1つとしての人口密度が、参考程度の説明力を持っている事を示しました。最後に、都市における選択肢の多さが各人の都市への転出の決め手と考える事が妥当だと述べました。

これから、「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」の報告書における「アンコンシャス・バイアス」という用語について、不適切な部分などを指摘して行きたいと思います。

参考:データは令和2年の国勢調査と、令和7年の国土地理院技術資料から著者が作成しました。

2025/4/1 矢田さんがされたXでの投稿についての記載を追加しました。

Comments