アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)を測るテスト、IAT

 日本では「考えが偏見である事に気づいていない事」「ステレオタイプである事に気づいていない事」「思い込み」等が「アンコンシャス・バイアス」とされていますが、それに気付く・気付かないはアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の有無とは関係しません。

 潜在的バイアスの提唱者の一人、グリーンワルドは、潜在的バイアスを測るテスト、潜在連合テスト(Implicit Association Test, IAT)を開発しました。これは、分類するときの反応速度によって、分類対象と分類との連合の強さを測るものです。IATは、潜在的なステレオタイプや潜在的な態度を測定します。このテストにより、それまでの質問形式では明らかにすることが出来なかった心の側面が、測定されるようになりました。

 具体的には、以下のようなものになります。

 この例では、ディスプレイ上部に分類する項目として、左側には「女性」「家庭」、右側には「男性」「仕事」と表示されています。被験者は、真ん中に表示される「彼女」という単語を見て、左側に分類します。分類は、左、右に紐づけられたキーボード (例えば左ならば E, 右ならば i ) を叩く事によって行われます。真ん中の単語は、「彼」「男性」「少年」「彼女」や、「台所」「オフィス」「庭」「職業」「結婚」等といったものが表示されます。


 次に分類項目を変えて、「仕事」と「家庭」の項目を左右反対にします。被験者は、真ん中に表示される「オフィス」という単語を見て左側に分類しますが、多くの人は先ほどの分類よりも反応時間がかかるのではないでしょうか。
 このテストは、女性と家庭を、男性と仕事を結び付ける潜在的なステレオタイプを私たちは持っているかどうかを測定します。ここで重要なのは、被験者が女性でも、女性と家庭という連合を強く持っている事もあり得るという事です。

 IATは、潜在的な「態度(attitude)」も測定可能です。態度とは、花が好きや虫が嫌いといった、ある人の好意や非好意を表すものです。


 この例では、分類項目「花」「良い意味」が右側に、「虫」「悪い意味」が左側になっています。真ん中に表示される単語は、「ユリ」「悪魔」「優しい」「ゾウムシ」「バラ」「天国」などが表示されます。


 良い意味」と「悪い意味」を入れ替えてテストすると、被験者は(虫が大好きでない人は特に)先ほど分類よりも時間がかかるでしょう。もちろん虫が大好きな人にとっては逆の事が起こり得ます。

 IATが、潜在的ステレオタイプや潜在的態度などを測定可能にした事は学会に大きな衝撃を与え、多くの関連する研究がされ発表されて来ました。
 IATは、ハーバード大学のサイト”Project Implicit”(Project Implicit (harvard.edu))で受験可能です。現在までにIATは少なくとも4千万回受験されています。日本語では、IATテスト ホームページ (harvard.edu) で受験可能のようです。
 世界的にImplicit Biasという用語がUnconscious Biasよりも良く使われ知名度が高いのは、このテストが非常に有名だからという事もあるのでしょう。

 このテストが何をどう測ろうとしているのか理解すると、このテストと日本における「女性はリーダーに向くと思いますか」といった質問形式の「アンコンシャス・バイアス調査」とは、性質が異なるという事が分かると思います。

 試みに、このIATを手元のPCで実装してみました。動作がより理解頂けると思いますのでご覧ください。これは虫と花、良い意味と悪い意味を分類に用いています。元にしたコードは、demos / OpenIAT · GitLab です。



次に、アンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)が、バイアスの総称なのか、考えて行きたいと思います。

参考:
「心の中のブラインド・スポット」M.R.バナージ、A.G.グリーンワルド

2025/4/5 「日本では「考えが偏見である事に気づいていない事」「ステレオタイプである事に気づいていない事」等が「アンコンシャス・バイアス」とされていますが、それに気付く・気付かないはアンコンシャス・バイアス(潜在的バイアス)の有無とは関係しないのです。」という文言追加。

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